デイノニクス

1964年の8月はじめの暑い日のことです。アメリカ・モンタナ州のブリッジャー近郊に露出する白亜紀前期の化石層で、数名の古生物学者が熱心に化石探しをしていました。そのメンバーに、エール大学の古生物学者ジョン・オストロム博士がいました。オストロム博士は、風化してすっかりもろくなった黒い岩の表面に、未知の爬虫類の巨大な爪に気づきました。
それが「走る凶器」デイノニクスの最初の発見でした。このデイノニクスとは、「恐ろしい爪」という意味です。デイノニクスは全長2・5メートル、体重200キログラム未満の2足歩行をする小型の肉食恐竜です。
この恐竜は体は小さくても、後ろ足の人差し指が大型になっていて、その先になんと10メートル以上もある鋭いかぎ爪がついていたのです。むろん、化石となって残っているのは、かつて爪を支えていた骨の芯にあたる部分であるから、デイノニクスが生きていた時は、20センチメートル近い角質の爪を持っていたことになります。
この巨大な爪は、デイノニクスが走る時、邪魔にならないように上に強く折り曲げることが出来たそうです。ほっそりとした長いしっぽには、尾椎骨(しっぽの骨)の出っぱりが細い棒のように伸び、それが束になってしっぽを支えていました。そのため、しっぽはほとんど曲げることが出来なかったようです。
このデイノニクスは、しっぽでたくみにバランスをとりながら、植物食のおとなしい恐竜に襲いかかり、飛び上がって相手の背中に乗り、鋭い爪で皮膚を引き裂き、また足の腱を切断してたおし、切れ味のよいナイフのような歯で引きちぎって食べていたと考えられています。
そして、大きな植物食恐竜を倒す時は、集団戦法をとったとする意見が出ています。こんな行動は、とても冷血(気温の変化とともに体温が変わること。変温)で、動きの鈍い爬虫類では不可能だとみなしたオストロム博士は、デイノニクスは鳥類や哺乳類と同様、温血(気温の変化に関わらず、体温が一定であること。恒温)であったにちがいないと考えました。
これが恐竜温血説のはじまりです。そして、オストロム博士の説を受けて、一歩前進させたのが、アメリカの古生物学者バッカー博士でした。バッカー博士は、肉食恐竜と植物恐竜の比率をアフリカの草原に生息する現生動物(現代に生存している動物)と比較したり、骨の構造を詳しく調べたりして、その結果として、恐竜温血説を強く主張しました。しかしバッカー博士の研究にも多少の問題があり、現在でも温血か冷血かを巡って、世界中の古生物学者の間で活発な論争が展開されています。

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